現在進行中の原発事故をどう見るかについて、現時点での私見を以下に書きたいと思います。
ちなみに私は原子力の専門家でもなんでもありません。ただ、脱原発の運動や公害の歴史等々を勉強してきた身として現在流通している情報はあまり信用できないと思い、以下の文章を書いてみました。
1.原発事故の現状をどうみるか?
原発事故の現状を判断するに当たってはどの情報を参考にするかという問題がまずあります。
以下に記す私見は、次のような情報源を参考にしています。
1.テレビ、新聞などマスメディアニュース、
2.
原子力資料情報室、
環境エネルギー政策研究所等の専門性の高い脱原発運動をしているNPOが発信している情報
3.原発に批判的な研究者・技術者(後藤政志元東芝原子炉技術者、今中哲二京都大原子炉実験所、小出裕章京都大学原子炉実験所助教ら)
4.原発関連問題を追究してきたジャーナリスト(広瀬隆、広河隆一等)
などです。
さて、今日(3/22)に至って3号機の中央制御室の電気が復旧したらしい(※1)ですが、状況はまだまだ危機的です。
※1 「3号機中央制御室の照明が点灯 福島第1原発」 2011年3月22日 23時27分
東京電力によると、22日午後10時43分、福島第1原発3号機の中央制御室の照明が点灯した。(共同)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011032201000598.html今回の原発事故の根本原因は冷却機能が失われた=冷却機能をまわすための電源が失われたということです。
よって現在、特に1~3号機の冷却機能の回復が急がれていますが、しかし、報道にあるとおり、そう簡単に回復するものではないといわれています。
具体的には原子炉を安定させるためには
(1)電気系統の復帰、
(2)ポンプの復帰、
(3)安定した冷却水の供給機能の復帰、
(4)(1)~(3)の安定的な運転
という段階を踏まないといけないといわれています。
※「3/17 福島原発の現状と、今後予想される危険~後藤政志さん」の話から
http://www.youtube.com/watch?v=etcASxPNzeU今日(3/22)の段階では(1)の一部が3号機について実現したというだけで、まだまだ冷却機能の回復には時間がかかりそうです。
これはつまり、まだまだ危機的な状況が続くということです。
ちなみに後藤政志氏によれば、事故を起こした原発の最終的な処理には10年はかかるだとうと言っています。(スリーマイル島の事故は10年かかった)
2.被曝のリスクをどう見積もるか?
1のような現状認識に立った上で、では被曝のリスクをどう見積もるのかという問題があります。
ここで考慮すべきは以下のような点です。
①政府や東電の情報を信用するか?
②問題とすべきは晩発性の放射線障害である。
③被曝の影響は性別・年齢によって違う。
④公害裁判等における政府、大企業の対応の歴史
⑤もしもの事態になったら逃げられない。
まず①政府や東電の情報を信用するか?について。テレビや新聞等では、東電や政府などはそのときどきの放射線の量を発表していますが、それらの数値はある時点でのある地点の数値でしかありません。つまり、別の地点で測れば、もっと高い数値が出るかもしれませんし、そうではないかもしれません。
また本当に高い数値を検出してもそれを公表するのかという問題があります。実際に小出裕章氏が独自に東京都台東区の放射能の値を分析した結果(放射能の値が高かった)を発表しようとしたところ、小出氏は上司に呼ばれパニックになるから発表しないようにと言われたそうです(※
2011年3/18京大原子炉ゼミ1「もうやめよう、原子力ほんとうに」小出裕章1/2 、3/18京大原子炉ゼミ2「もうやめよう、原子力ほんとうに」小出裕章2/2 )。
これは政府の対応の例ではありませんが、専門家はこういう発想をするということを如実にあらわしています。
また、政府は自前で持っているはずのシミュレーションシステムの結果を公表していません(※下記読売記事)。
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放射性物質の拡散予測公表せず、批判の声
福島第一原発の事故で、文部科学省が行った放射性物質の拡散予測の結果が公表されていないことに、専門家から批判が上がっている。
今回のような事故を想定して開発されたシステムだが、「生データを公表すれば誤解を招く」として明らかにされていない。
このシステムは「SPEEDI(スピーディ)」と呼ばれ、炉心溶融に至った1979年の米スリーマイル島の原発事故を踏まえ、開発が始まった。現在も改良が進められ、2010年度予算には7億8000万円が計上された。
コンピューターで原発周辺の地形を再現し、事故時の気象条件なども考慮して、精密に放射性物質の拡散を予測する。今回の事故でも、原発内の放射性物質が広範囲に放出された場合を計算。政府が避難指示の範囲を半径20キロ・メートルに決める時の判断材料の一つとなった。
住田健二・大阪大学名誉教授は「拡散予測の結果を含め、専門家が広く議論し、国民が納得できる対策をとれるよう、情報を公開すべきだ」と批判する。
(2011年3月22日23時11分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110322-OYT1T01065.htm?from=main2--------------------------------------------------
さらに被曝の量を説明するのにレントゲンやCTとの比較をして心配する必要はないと言っていますが、レントゲン等の外部被曝と内部被曝はまったく影響力が違います。こうしたレトリックからも政府、東電またはテレビに出てくる東大等の専門家の言葉が信用できない理由の一つになります。
また東電の事故・トラブル隠しは既に何度も問題になっているわけですから、私見としては政府・東電の言い分はそのまま鵜呑みにするのはまずいと思っています。
次に②の「問題とすべきは晩発性の放射線障害である」について。テレビや新聞では、現在放出されている放射線を浴びても「直ちに健康に影響はない」と言っていますが、もし「直ちに健康に影響」があるというレベルであれば、それはJCOの臨界事故レベルであり、原爆、ビキニでの原爆実験等で被曝したレベルになります。
つまり、そんなレベルであったら原発内で作業などできないし、やったとしてもみな次々に倒れているはずだからです。
ここで問題とすべきは、後々に現れるであろう放射線障害です。これを晩発性の放射線障害などと呼びますが、これについては許容量などないというのが、国際的な認識になっているようです。
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※参考
「さらにICRPは、
しきい値が存在しないという仮定から、線量当量限度以下であっても不必要な被曝をさけ、線量を合理的に達成できる限り低く保つことを放射線防護の基本的考え方として勧告しています。
http://www.nirs.go.jp/report/nirs_news/9908/hik5p.htm)。
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つまり、これくらいの量であれば放射能を浴びてもいいという量などはないということです。低いレベルの放射能でもそこに居続けるだけで被曝の量は毎日増えていきます。当然ながらそのぶん健康を害するリスクは高くなります。
次に③「被曝の影響は性別・年齢によって違う」について被曝については新聞等でも示されているように子どもや妊婦の方がリスクが高いといわれています。
また②に書いたように晩発性の障害が問題になります。ということは、年齢によって放射線障害の影響の現れ方が違うということでもあります。つまり、平均余命的な見方で言えば、平均余命がより長い人のほうが影響が現れる可能性も高いということになります。
ただし、こうした放射線障害は究極的には個人個人の感受性に因ります。つまり、同じレベルの放射能を浴びてもある人には障害が出て、ある人には出ないということになります。
この辺りを自分でどう見積もるかというのがポイントになります。
次に④「公害裁判等における政府、大企業の対応の歴史」について。繰り返しになりますが、今回の被曝のポイントは低線量の被曝による晩発性の放射線障害です。
これに関して過去の公害訴訟や原爆訴訟の流れを見ると、もしも晩発性の放射線障害が現れても十分な補償が受けられる可能性は低いと考えられます。
はっきりと目に見えるような形で障害が出ればわかりやすいですが、体がなんとなくだるいといった症状については因果関係を立証するのは難しいと言われています。
※「原爆症認定、却下理由を初公表 「因果関係なし」大多数」
http://www.asahi.com/national/update/0921/OSK201009210111.html公害の歴史を見ても政府や原因企業は、できるだけ補償金を低く押さえ込もうという方向で動きます。
こうしたことも踏まえる必要があるでしょう。
⑤「もしもの事態になったら数日間は逃げられない。」について現在、公表されている放射線濃度のデータからすれば、まだまだ危険なレベルではないとマスコミ等では言われていますが、本当に危険なレベルになったときにはどうなるかを考えてみると、まずそのような事態になったらパニックになり、誰も逃げられない状況が起こるでしょう。
往々にして緊急事態になっても自分だけが逃げられると考えるクセがありますが、みんなが危険な状態になったときにはみんなが逃げることを想定しておかなければなりません。
加えてこれについても、危険な状態にあるという情報を政府や東電が速やかに情報を流せばの仮定の上での話ですし、その情報をすぐにキャッチできる環境に自分があればという仮定の上でのこととなります。
パニック状態になったら、逃げるよりも屋内退避の方が緊急的には安全な対応になるでしょう。しかし、そうなると福島県内で起こったように、危険地帯には誰も寄り付かなくなり、兵糧攻めのような状態になりえることが考えられます。
【とりあえずの結論】まず確認する必要があるのは、判断は自分でしかできない、ということです。
具体的には予想し得ない危険性(放射線障害が起こりうるか、原発が安定するかどうか)をどのように見積もるかということが基本になるでしょう。
福島原発の状況について言えば、少なくとも冷却機能が回復するまでは緊急事態と捉え、必要と思えば30km圏内に限らず避難をするとか、いざという時のためのシミュレーションをしておく必要があるでしょう。
また被曝の危険性については、少なくとも子どもや妊婦はアメリカが示した80km圏内から退避したほうがいいように思います。その他の人々は晩発性の放射線障害の可能性を踏まえた上で、個々で判断する必要があるでしょう。
政府や東電、マスコミがああ言っているから大丈夫とか、
詳しそうな人がああ言っているから危険だと判断を委ねないこと。
双方の情報及び情報発信者の背景を踏まえた上で、自分で判断するしかないでしょう。
ともあれとにかく少しでも早く原発事故が収束することを祈ります。
以上。
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