http://mainichi.jp/seibu/photo/news/20110907sog00m040003000c.html原発:電源の透視図 九州の原発を歩く/「ゼニのためのデモ」
漁師がこぶしを振り上げながら張り上げたシュプレヒコールは原発建屋にこだました。05年9月15日午前10時すぎ、九電玄海原発(佐賀県玄海町)の沖合に約140隻の漁船が集結した。船体には「プルサーマル絶対反対」の横断幕。玄海原発のプルサーマル計画に国が許可を出した8日後のことだ。
デモをしたのは玄海町に隣接する唐津市の4漁協。海上デモは5月に続き2回目だが、なぜかこれを最後に収束した。参加したある漁師は明かす。「俺たちはプルサーマルに反対しとったんじゃない。ゼニをもらうためのデモだったから」。漁連元幹部も述懐する。「反対しても国と知事と町長がよかって言えば、それでよかになる。反対してもどうもならん状況やった」
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原発を立地する時、電力会社は地元漁協に漁業補償金を支払う。埋め立てによる漁業権の消滅や、温排水による影響など地元の漁業活動に支障が出ることへの補償だ。額は過去5~10年の漁獲高などを基に計算する。玄海原発近くの外津漁協(玄海町)はこれまでに約20億円、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)3号機増設を巡って川内市漁協は約44億円の補償金を手にしたといわれている。
だが、補償金は原則、原発の新設や増設以外では支払われない。「ゼニのためのデモ」と明かした漁師は毒づく。「プルサーマルを導入したら玄海町だけは公金(交付金)をいっぱいもらえるけど、俺たち漁師には何もない」。だが、海上デモを行った漁協が所属する漁連は、09年から3年間で計7億円を引き出す約束を九電と取り付けた。名目は「水産振興対策費」だった。
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九電から原発マネーを引き出したのは漁協だけでない。
06年8月。佐賀県議長の原口義己県議(当時)は福岡市の九電本店に乗り込んだ。当時、九電は福岡市が計画していた粒子線がん治療施設について協力態勢の検討を進めていた。そこへ佐賀県も名乗りを上げたのだ。「建設には九電の協力が必要だった」(原口県議)。県議には切り札があった。
プルサーマル計画の賛否を問う県民投票条例案。「可決させますよ」。九電幹部に迫った。県民投票になればプルサーマル計画は頓挫する可能性もある。条例案の可否を決めるのは議会だ。
結局、場所は佐賀県鳥栖市に決まり、福岡市は撤退した。なぜ九電は引っ繰り返したのか。当時の九電が置かれた状況をみればよく分かる。プルサーマル計画は国策で進められていたが、先行していた東電が機器トラブル隠し、関電が検査データ改ざんで相次いでつまずいた。「それで九電に第1号の期待がかかっていた」(九電元幹部)。プルサーマルは至上命題だった。
「国内第1号のプルサーマル営業運転に向けた関係者の大変な努力に敬意を表したい」。09年12月、プルサーマル発電が玄海原発で国内初の運転を始めた日、原子力安全・保安院の担当課長は検査合格証を九電幹部に手渡し、たたえた。翌年4月、九電はがん治療施設(事業費約150億円)に39億7000万円の寄付を発表した。
2011年9月7日
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