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<祈りと震災>(5)科学に心追い付かず(1/27 6:05)

見覚えのないネックレスが今も脳裏に浮かぶ。
 十字架とハートを組み合わせたデザイン。息子の遺骨とともに警察から引き渡された。遺骨に引っ掛かっていたという。
 一緒に住んでいたのに記憶にない。息子の親友から「肌がかゆくなるから嫌いだったはずだ」と聞いた。
 「お前は本当に死んだのか。間違いないのか」。疑念がこみ上げる。
 宮城県亘理町の無職小野時郭(ときひろ)さん(68)は東日本大震災で次男宏行さん=当時(33)=を失った。自宅近くで津波に巻き込まれた。

 太ももは2011年12月にがれき集積場で、頭は13年2月に水路の復旧工事現場でそれぞれ見つかった。ともに損傷が激しく、生前の面影はもちろんない。DNAと歯型が身元特定の決め手となった。
 津波による行方不明者が多い中、生きたしるしが戻ってきてくれてありがたかった。頭では息子の死を理解しようとするが、どこか割り切れない。
 火葬後、妻の八重子さん(67)と「しばらくは手元に残す」と決めた。自宅の仏壇に骨箱を置き、ネックレスを掛けた。
 「息子の体がもっと見つかるかもしれない」「人違いならどこかできっと生きている」。二つの願いが交錯したまま1年以上が過ぎた。
 「友人がお盆に墓参りしてくれるのに、遺骨がないのは忍びない」。昨年7月に納骨を済ませ、ネックレスを墓に入れた。
 それでも区切りをつけられない。

 納骨して間もなく、スマトラ沖地震の大津波で行方不明になった少女が見つかったというニュースがテレビで流れた。10年ぶりの家族との再会。現実的でないと言い聞かせつつ、宏行さんに置き換えて想像を巡らせた。
 出入りしそうなパチンコ店に足を運ぶ。若い男性の後ろ姿に目が向く。襟足が長いと似ている気がして、回り込んで顔を確かめてしまう。
 科学の力なしでは突き止めることができなかった身元。でも科学は信じ切れない思いまで解消してくれない。死を受け入れるかどうか、納得のいく答えは見つからない。
 「納骨したのに何を考えているんだろう」
 ほほ笑む遺影への問い掛けを続ける。宏行さんの魂は、両親にどんな返事をするのだろう。

http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201501/20150127_13016.html
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